教員の1冊『本は読めないものだから心配するな』

推薦の言葉(地域社会学科 仙波希望)

本は読めないものだから心配するな

本は読めないものだから心配するな

本学教員からのご紹介です。

 「国民の本質は、忘却、歴史的誤謬である。」
19世紀の終わりにエルンスト・ルナンはこう述べたが現在、「記憶にない」という言葉は、「国民の義務」を免れえた政治家たちの専売特許となりつつある。無論、三日前のタイムラインなど誰も記憶に留めていないように、膨大かつ加速度的に流転する情報環境のなかに漂いながら、私たちは常に忘れつづけている。
忘れっぽい私たちは、だからいつの時代においても読んだ本のことを忘れてしまう。じゃあ読む意味なんてないのだろうか。
違う。読むという実践は、忘却への抵抗である。私たちは忘れる。絶対に忘れてしまう。だからこそページを手繰り続けて、「記憶にない」などの妄言に立ち向かう必要がある。流れていく(ルビ:フロー)物語(ルビ:ストーリー)などではなく、植えつけられた一つ一つの言葉を、忘れてしまうのなら何度でも目に焼きつけることそれ自体が、政治的で、こういってよければ危険な抵抗だ。非国民などと曰うナショナリストが最も戦慄するのは、私たちが忘れる生き物であると自覚することなのだから。
けれども大丈夫。本は読めないものだから心配するな。



 
書名:本は読めないものだから心配するな
著者:管 啓次郎 

出版社:筑摩書房
出版年:2021年


本はここにあります


 

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