教員の1冊『気流の鳴る音』

2017.6.8(木)

推薦の言葉(保育科 准教授 岡健吾)

気流の鳴る音(扉絵)

気流の鳴る音(扉絵)

本学教員からのご紹介です。

 私が学生時代から大切にしている、とっておきの本を紹介させてもらいますね。本書は、その出会い以来の二十数年間、読み返すたびに“その瞬間”の自分自身が持ち合わせている感性に呼応するように、緩やかに次への挑戦を私に与え続けてくれています。
 著者の本名は見田宗介。日本の代表的な社会学者(現、東京大学名誉教授)として多数の名著がありますが、本著名の“真木悠介”としては、人間の生き方の研究・生き方を満たす“感覚”の研究をビジネストーク的な人生論ではない、柔らかな学問として著しているようです。
 本書では、近代文明を越える未来の社会を構想するには、近代以外の文明を導きの糸にすることと、近代を否定するのではなく相対化するという視座から、日本の僻地で豊饒な生活を営む人々や、中南米の民族へのフィールドワークを例に、その姿や関係性を詳細に描くことによって、人間本来の自然性に内在する感性の拡がりの本質を示しています。
 例えば、以下の文章を引用します。
 『支配の欲求が他者をもたえず自己へと同化することを欲するのと反対に、出会いの欲求は自己をもたえず他者へと異化することを欲する。支配の欲求は同化的であり、出会いの欲求は異化的である。』
 社会を俯瞰する意味はさておき、まずは自分自身に対峙する意味でも、私が手放さないようにしている一節です。
 書物も芸術も、描き手の力量と読み手の感性が対峙するものだと思います。私にとっては本書のように、皆さんの人生と共に交感し続けている本をもっと知りたい!!(笑)


書名:気流の鳴る音 : 交響するコミューン(絶版、所蔵なし)
著者:真木悠介(まき・ゆうすけ)
出版社:筑摩書房
出版年:1977年
 
・本はここにあります
書名:気流の鳴る音(定本真木悠介著作集;1)
著者:真木悠介(まき・ゆうすけ)
出版社:岩波書店
出版年:2012年