教員の1冊『聖書が生んだ名画』

2016.2.9(火)

推薦の言葉(副学長 鈴木正實)

聖書が生んだ名画

聖書が生んだ名画

副学長からのご紹介です。


 ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂天井画≪天地創造≫は、西洋美術史でおなじみの作品だが、文章を読んでみて、あたかも初めて観るかのように新鮮に感じた。この予期せぬ感覚はいったい何なのだろうか?
 周知のように聖書は「はじめに神は天と地を創造された」という文言で始まる。著者はこれを疑問の余地のないマニフェストだと言う。 この世にまだ聖書がない時代、力の弱い人間は「強い人間」に支配されることが絶対に正しくないことを知る規範がなかったのだが、それが聖書の出現によって初めて知らされることになった、と語るのである。先の天井画に対する私の既存のイメージは、この意味をもって変更・再生させられたのである。
 マザッチョの異時同図法を用いたブランカッチ礼拝堂壁画≪貢ぎの銭≫も同様であった。ローマ帝国への税金支払いの問題に対し、キリストは総監ピラトに「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に」と答えるが、これは実は私にとってかなり意味不明であったが、著者は先の天地創造の意味の一貫性をもってこう述べる。私たちの生存が地上の国家・皇帝カイザルのお蔭であると思うなら皇帝に税金を納めるべきだが、神のお蔭であると思うなら神に納めるのが正しい、と答えたのである、と。
 この本は今でも私は鞄に入れ持ち歩いている。聖書に限らず、絵画のイメージ解釈の多様なおもしろさを、いつも促してくれるからだ。


書名:聖書が生んだ名画
著者:保坂清(ほさか・きよし)
出版社:玉川大学出版部
出版年:1992年

本はここにあります